本体周りの増築部分や道路際の塀を撤去し、建築周りに豊かな外部空間を作りました。
ひふみstepsの名前の由来でもある、手前から奥へだんだんと上がりながら3つの共用空間、ドマ、キッチン、リビングが展開していきます。またそれぞれが外部テラスへ繋がり、内部からはどこからでも緑が見えるよう計画しています。
ドマでは、食事、仕事、読書、イベント、自転車の整備等を行うことができ、床の仕上げを外部のテラスと同じ三和土仕上げとすることで、内外一体に利用することが可能となっています。
共用空間の中央、階段の降り口に、キッチンを設けることで“ながら”コミュニケーションが起こるように工夫しました。一段上がった奥にはリビング、その奥にはテラスが続いています。
ドマとキッチンの間のカーテンの透過率を変え、奥のリビングを遮りプライバシーを確保しつつ、テラスの緑が見えるようにしています。
建物周りのテラスは一人でくつろいだり、談笑したり、住人にとっての憩いの場となります。
2階は既存を最大限生かした空間となっています。廊下は既存の壁下地の木摺りに土壁を塗りこみ印象的な空間を作り出しました。
2階の各個室は、既存の天井を取り払い勾配天井とし、ロフトを設置しています。
2階の土壁は1階で撤去した土壁の土を再利用し、素朴な味わいのある壁としています。カーテンは吊り位置とひだをコントロールし、抽象的な表現を目指しました。
自動車整備工場や染め物工場等が立ち並ぶ街並みを舞台装置に見立て、外部テラスのロハスさを演出しています。
住人の多様なライフスタイルの受け皿
1階は全面共用空間としており、住宅やアパートでは享受することのできない豊かな空間が生まれています。ドマリビングで談笑や仕事、自転車の整備やイベントを行ったり、ゴロゴロリビングではゲームや映画、食事や横になってくつろいだり、テラスでは朝食や読書、大勢でのバーベキュー等、様々な過ごし方ができます。
2階(ロフト付き)は個人のプライベートな空間です。余すことなく建物を利用できるように天井を取り除き、新しくロフトを設置しました。ロフトはベットを置いたり、趣味の部屋として使うことができます。
今回の計画では、可能な限り間仕切りと取り払い、本体周りの増築部分を撤去することで民家のように部屋同士、内部と外部が連続的に緩やかにつながる空間と作りました。これは多様な活動があふれる広場のようなオープンエンドの場所です。
「ひふみsteps」の歴史
築50年ほどになる建物は、元々1階が家族の住居、2階は大学生の下宿でした。家の先代オーナーはかつてこの家の1階に住みながら、若い人に頑張ってほしいという一心で下宿屋を営んでいたそうです。その下宿から学生の姿が消えてしばらく経った2009年に、シェアハウス「ひふみ荘」として、新たに若者たちがここに住み始めました。
ひふみ荘では10年の間に、年齢も職業も、ときに国籍も異なる総勢35人が暮らしました。普段の生活はばらばらでも、時間が合えば一緒に夕食をつくり、誕生日や忘年会にはパーティを開く、事業者の介在しない自主運営型のシェアハウスでしたが、月1回の定期ミーティングを欠かさず開催して生活やお金のことを話し合い、DIYによる改装も行なっていました。
このひふみ荘は2019年の3月、ちょうど10年の節目をもっていったん解散。そして大規模な改装をして、新たなシェアハウスとして生まれ変わりました。下宿やひふみ荘の文化を受け継ぎ、歴史ある建物をより長く生かしながら、かつより居心地のよい空間とすることで賃料を増す狙いもあります。
「ひふみsteps」という名前は、1階の、手前から奥へとだんだんに上がりながら3つの共用空間が連続する様子を、「ひ・ふ・み」の3ステップになぞらえると同時に、ここに住まう人が人生のステップを上がっていってほしいという、先代の思いを引き継いだ現オーナーの願いも込められています。
次の10年で果たしてどのような人がここに住み、どのような時間が刻まれていくのでしょうか。
改修前の外観とリビングの様子
改修前の2階廊下と個室の様子